図書館学徒の雑記帳

図書館が好きな政治学科生です

【ボツ】書籍は物価の優等生?ー出版業界の通説を疑う①

最近、物価が上がっているのを実感します。ニュースでも連日物価上昇が取り沙汰されていて、先日は「『物価の優等生』と呼ばれる卵が値上げしました」と報道されていました。

 

ここでいう「物価の優等生」の意味は、「価格変動長期にわたって小さく、更に元々の価格も安いなどのモノ意味する語」です。広辞苑や主要な辞典には記載がなく、実用日本語表現辞典を参照しました。ちなみにこの辞典、Wikipediaと似て文責が曖昧なネット辞典なので、学術論文で使用することには賛否両論あるので注意しましょう。たまに参照してる論文を見かけますが...。気になる方は以下のWikiを読んでみてください。

ja.wikipedia.org

さて、大学で図書館の勉強をしていると、出版業界のことも学びます。なぜなら、出版業界と図書館はすご〜く関係が深いからです。具体的には、「図書館は書店の売上を奪ってるから民業圧迫だ!」とか、「いやいや、図書館は書店にとってお得意様だよ」とか。この辺の論点は、いずれ別の記事で紹介できたらと思います。

 

本筋に戻ります。出版業界について学ぶとき、特に大事な論点は「再版制度」です。そして、再販制度を擁護する立場がその根拠として主張したのが「日本の書籍は再販制度によって物価の優等生となった」という(社会科学的に謙虚に言えば)仮説でした。

 

再販制度は「再販売価格維持制度」のことで、独占禁止法で本来禁止されている、メーカーが卸売業・小売業の販売価格を指定する「再販行為」を例外的に認める制度です。言われてみれば、書籍は「定価」が印字されていて、他の日用品と違ってどのお店でも(バーゲンセールとかは基本なく)同じ値段で手に入りますよね。現在法律で再販制度の対象となっているのは、「書籍・雑誌・新聞・音楽用CD・音楽テープ・レコード盤」の6つです。かつて(1997年頃まで)は、医薬品や化粧品の一部も再販制度の対象となっていたのですが、、、再販制度自体の話は、また別の記事に回しましょう...!

 

で、書籍の再販制度の話に戻ると、例えば高須次郎は『出版の崩壊とアマゾン : 出版再販制度<四〇年>の攻防』(2018年、論草社)で再販制度=定価販売によって、本の定価は物価の優等生と呼ばれるほど安定し(p.323)」ていると述べています。この方は僕の学部の遠い遠い先輩でもあるのですが、出版業界で立派な論陣を張っておられます。

同じような言説は探せばちらほら見つかります。岡部一郎は 『出版業界に未来はあるのか:出版人に贈る出版の未来と生き残り策の提言』(2019、出版企画研究所)で、1950 年から 2016 年にかけて消費者物価が 8.19 倍に上昇したのに対し、出版物の定価がそれほど上昇していないことに言及して、出版物を物価の優等生と述べています(p.175)。

出版業界に未来はあるのか | 一郎, 岡部 |本 | 通販 | Amazon

読売新聞(1995-08-01、東京朝刊)には、「書籍、雑誌の価格上昇率は、消費者物価指数の上昇に比べかなり低く、 『物価の優等生』と評価されている。」とあります。

 

これらの言説から「物価の優等生」とは価格上昇率が消費者物価(指数)の上昇率よりも十分に低いモノを指すこと、そして「物価の優等生」の基準は国内の物価との比較であり海外の物価との比較ではないことが推測されます。これから「物価の優等生」について数字で分析するためにも、この辺の定義と操作化は明確にしておきます。

 

さてさて、これからの記事では「日本の書籍は本当に『物価の優等生』だったのか/今もそうなのか」という点について考えていきます。日本の消費者物価指数(CPI)と書籍平均価格を時系列で比較して、まあ、(そんなことないよ><)ということを明らかにしようと思います。

 

 

...という感じで、1週間に1,000字以上の記事を一つ出せれば万々歳ですね。頑張ります。ちなみに、この一連の記事は僕が去年、大学1年生の秋学期「図書館情報資源概論」の授業で提出したレポートを元にしています。内容は特に精査していないので(いずれ更新したい)間違いがあったら優しく教えていただけると助かります。

 

2023/1/2追記:記事の2番目が投稿されました。

libraryscience.hatenablog.com